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『夢の中の巨匠』

Oh!Ah!Now! Wombat - 自由なバザール

 

『夢の中の巨匠』


いつのまにか、ソファーでうたた寝をしてしまったらしい。
これは、夢の中の話である。

僕は貧乏学生だった。着ている服もボロだったし靴にも穴があいている。
ポケットには小銭とお札が一枚入っていたが、それだって恐らく貰ったものだろう。
持っている絵の具道具だって拾ったものだ。
僕はこれでも絵描きになりたいと思っていた。
でも今までに絵の具を買ったことなどなかった。
だから思いっきり絵の具を使って絵を描いたこともなかった。
一度でいいからたくさんの絵の具で思いっきり絵を描いてみたい!
いつもそう思っていたが、使う絵の具はいつも少しだった。

絵の具がなくなりそうになると、学校の演劇部で大道具のアルバイトをした。
とは言っても僕は演劇部ではなかったから、重たい木材やスチールのパイプなんかを
大道具を組み立てる場所まで担いで運ぶものだった、全て運び終わると小銭をくれた。
それと、絵の具を少しわけてもらえた。
大道具はいつも絵の具をたくさんつかうから、僕が少しくらいもらっても困らないし
みんな気前がよかった。「もってけ!」「もってけ!」
僕はここに来ると幸せな気持ちになれた。
ようし、僕も絵描きになるぞっ!とファイトが出てくる。
貧乏学制だなんて気にもならなくなってくる。
演劇部での大道具のアルバイトは、僕の人生の貴重な一部だ。

僕はどんよりとした町をボロボロの絵の具道具を手に
ボロボロの格好で歩いていた。
ふとゴミ置き場の前で足を止める。
捨ててある物を一通り見るのは、もう習慣になっていたが
今日は特別、そこに捨ててある物に息をのんでぴたりと足は止まった。
「絵」だった。
誰が何の理由でそうしたものか、そこには紛れもなく一枚の絵が捨てられていた。
作者は分からなかったがなんとも引き付けられる絵で、
「僕はさっきからこの絵の中を歩いていたのではないか...」と錯覚するような絵だった。
一言でいえば、貧乏臭さがあった。しかし落ち着いた色合だ。
手に持って見ていると胸がポカポカとしてきた。
僕はすっかりその絵が気に入ってしまい、持って帰る事にした。
その時、ポツポツと数滴のしづくが絵に落ちた。「雨だ」
絵を濡らさぬよう胸に抱え、空を見上げると
どんよりとした空に黒さが増し今にも土砂降りがきそうだった。
僕は辺りを見回し、赤いテントが張ってある煙草屋さんまで一気に駆け出した。
着いたころにはもうすっかり土砂降りになっていた。
赤いテントの下で絵の具箱をそっと降ろし、しゃがみ込んで雨が上がるを待つことにした。
さっき拾った絵をもう一度しずしずと見てみた。
やっぱり捨てられていたものだけに、所々傷んでいる。
この分だと何度か雨にあたっていたかもしれない。
僕は絵の具箱の中からいくつかの絵の具とパレット、パレットナイフを取り出した。
いつもになく今日は多めの絵の具をパレットの上に押し出した。
それをパレットナイフですくい、いくつかの色の絵の具と混ぜ合わせ
傷んでいる所にすり込んでいった。その作業を夢中で続けながらこう思った。
「ほんとにこれはいい絵だ。一体どんな作者が...?」
僕は次第に我を忘れ、絵の中にのめり込んでいった。

雨も少しは小ぶりになっていたが、当分ここを動きたくなかったから
心の中で雨がもうしばらくやまないことを願った。
しばらくすると、煙草屋のおばあさんが出てきて僕の描いている絵を覗き込んでいた。
(正確には描いていた訳ではないが、端からはそう思われただろう)
突然、おばあさんが声をかけたんで僕はびっくりして絵を反射的に覆い隠そうとした。
が、もう遅かった。おばあさんが絵を指さしながらこう言った。
「それは、..... 高杉慎作じゃのうけ?」「いや、似せて描いとんけ?」
「うまいもんじゃのう!高杉慎作そっくりじゃのう!」
おばあさんはそう言いながら煙草屋の奥に引っ込んでいった。
僕はポカンとおばあさんの消えていった方を眺めながら
まじまじと絵を見つめなおした。
「.......高杉慎作?.............. 高杉.................」
僕は頭をトンカチで殴られたような気がした。
それは間違い無く「巨匠・高杉慎作」の絵だった。
僕はその絵に事もあろうか、塗り絵をしていた。
いやその前に事もあろうか、捨てられていたなんて!

僕はパニックになりかけている間に、手はもう塗り絵の続きをしていた。
「僕は、今日の罰(バチ)で生涯絵描きになることはできないかもしれない。
ただ、このまま放っておく事もできない。この絵が可哀想ではないか!
だから、精魂込めて塗り絵をしよう。」

その後ある男があらわれてこう言った。「いい色使いだ」
僕は言った「高杉慎作の絵がもとだからね」
男「誰の絵がもとでもいいじゃないか。大事なのは君がそこで絵筆をとっていることだ。」
僕「..................!」
男「こんな所で描いていても一文にもならんだろう。しかしそれが重要じゃないんだな」
それはとても小さな声だったが、僕の耳にはとても大きく聞こえた。
僕はその男の目をまともに見ることができなかった。

そして男は何も言わず雨の中を消えていった。

 

WORDS BY KAZU
Love in Silence !!
2001.07.24

 

あとがき(夢からさめて)

ある日、気持ちのいい昼下がりでした。もうすっかり夏だな〜... 今年の夏はなにしよ〜かなーなどと... 涼んだ部屋のソファーでゴロゴロしながらいると、いつの間にか眠ってしまいました。。。どれくらい眠り込んでしまったのか... ハッっと眠りからさめると日はやや傾いて、もうすぐ夕方だよ〜って感じの黄金のPM.3:00頃でした。それよりもインパクトが強かったのは夢の中の出来事で、思い出そうとすると細部にわたりスラスラとその情景が出てきたのです。

そして僕は夢からさめて、何かやたらと気付かせてくれた 巨匠・高杉慎作に「ありがとう!!」と言ったのでした。

このお話しはKAZUの夢の中で本当にあった出来事を忠実に再現しています。
書いた本人が言うのだから、まちがいありません。

KAZU

 


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