リアルインド |
|
|
福岡からコナラクへ引っ越して間もない頃の、思い出話をひとつ。
私達夫婦は、当時、自分たちの土地も家も持たず(夫の実家はコナラクから約7キロ離れた村)、コナラクのなじみのロッジの一室を借りて生活していた。毎日の食事は、朝から晩まで外食。インドの片田舎のこと、外食となればカレーか、インドスナックか、チャイニーズとは名ばかりの、インド焼き飯、焼きそばがあるくらいのものだ。早くマイホームが欲しいな、自由に使えるキッチンが欲しいなと"普通の生活"に夢を託していた矢先、なんと、私は早々に妊娠してしまったのであった。
皆さん、カレーのインドでの"つわり"がいかに苦しいものであるか、ご存知でしょうか?
おなかはすくのに、何も食べたくない。食べたいものがあっても手にはいらない。例えば、ふかしイモに、バターをたっぷり塗ったら食べれそうだと思っても、当時のコナラクにはバターを売る店がなく、"バタートースト"の看板の出ているレストランをくまなくあたってみても、「ギー(精製前のバター)ならあるよ」か「ジャムではダメかい」という答えしか返ってこなかった。とほほ、である。(注:現在ではコナラクでバターは買えます)
体力が低下して、自室のベッドでゴロ寝していると、昼時になれば、ロッジの主人宅からぷう〜んと香辛料の香りが漂ってくる。"香辛料"というだけあって、クセのある刺激的な臭いである。私はゴロ寝などしている場合ではなく、洗面所へ突進しなければならなくなる。でも、悲しいかな、おなかの中は空っぽ。ゲロゲロと出るものは何もない。ただ異常に気分が悪いだけ。
"臭い"は立派な公害だと、このとき初めて私は認識したのであった。
カレー料理が喉を通らないのはまだしも、ビスケットやチャイ(甘いミルクティー)まで受け付けなくなったのには困り果てた。脳裏に浮かんで離れないのは、"永谷園のさけ茶漬け&梅干"という日本伝統の味。おりしも当時のインドは海外へ向けて、経済を開放しつつある時期だった。スズキやホンダもすばらしいけど、私個人の問題として、できることなら、永谷園にインド進出を果たしてもらいたいと、どれだけ本気で願ったことか。だけど、私は数ヶ月前の出来事を思い出したりもするのだった。
コナラクへ越してくる時、父と姉が同行していたのだが、彼らを見送った際に、プリーの駅のホームで日進のカップめんを発見したことがあった。日進は永谷園に先駆けて、すでにインド主要都市に商品を送り込んでいたようだ。私はためらわずにベジタブル味を注文した。姉はチキン味。思いがけず、日本庶民の味に遭遇した喜びに、私の胸は小躍りした。これから始まるインドの生活は、「安泰ですよ」と、日進さんに保証してもらったような気がした。
ところが、あれっ!?売店のおじさんのカップめんの調理法がおかしい。お湯をそそいでフタをして、3分待ったらお湯を捨ててしまった。それからセットの調味料をパラパラ。おいおい、やきそばUFOじゃあないんだぞ。私はあわてて、お湯を捨てた行為に抗議した。しかし、おじさんは自分が正しいと言い張る。姉のチキン味は湯を捨てぬよう申し付けたけれど、おじさんは納得がいかないらしく、お湯を半分捨てて、わずかにスープを作った。
まいったなぁ、インド人は近代文明についてはてんで無知なんだから!!カップめんひとつ作れないんだから!!とグチグチ言いつつ食べてみると、正しいのはおじさんだった。中身は正真正銘のカップ焼きそば。しかも、マサラ味!!日本庶民の味どころか、インドならではの香辛料だったのだ。
小躍りしていた私の胸が、一気に静粛を取り戻したのは言うまでもない。
と、そんな経験を踏まえた上で、もし永谷園インド工場が実現されたとしても、製造品目は"ピリッと刺激のマサラ茶漬け"かもしれないと想像すると、永谷園インド進出への期待は、不安へと変貌を遂げるのであった。
結局、ロッジ生活での、つわり期を、私は何を食べて生き抜いたのか?
毎晩(本当に毎晩!!)、日本食を食べる夢を見ては目覚めて涙をこぼしつつ(本当に泣いていた)、実際はりんご、みかん、トマト、きゅうり、ヨーグルト、炭酸飲料、ゆで卵等でしのいでいた。良いダイエットになった。
おしまい
今月の 夢の途中〜インド安宿日記〜いかがでしたでしょうか?
来月も読んでくださいね。
ナマスカール。
パート1 |
1 プロローグ 2 安宿のつもりが中級ホテルの設計図・・・5月9日〜5月12日 3 5月13日〜6月6日 |
パート2 |
1 6月7日〜6月30日 2 7月7日〜7月8日 3 今月のオマケ ナヤックさんちのこぼれ話 |
パート3 |
1 7月8日〜8月8日 2 今月のオマケ ナヤックさんちのこぼれ話 |
パート4 |
1 8月10日〜9月13日 安宿ピンチ!ノリコとパーカスの夢"は途中のままで、消滅してしまうのだろうか? |
番外編 |
ナヤックさんちのこぼれ話し |
番外編 |
沐浴に行こう!! |
番外編 |
ソニ・メーラNEW! |
|
残念ながら、ノリコさんにはパソコンはありません。使いたくても、ひどいパソコン音痴なんだそうです。それでも、日本の皆さんに発信したい!という希望を、かなえるべく、インドのコナラクより原稿をインドのプーナまで郵送、そこで、かちゃかちゃと原稿おこしをし、このページができあがっているというわけです。リアルインドでは、インドで、何か夢をかなえたい!何かやりたいって皆さんのご連絡を待っています!
リアルインド |