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丸富士 丸富士のバンスリとバリ島シリーズ

インド音楽のこころ、核心を吹き込んでもらったバンスリ・ワーラとの出会い

※バンスリとは、チョウラシア・ハリプラサードで有名になった、インド横笛。ワーラとは、屋と言う意味。ここではバンスリ吹きという意味

初めてヴァラナシに行ったとき、楽器屋になんとなく入った。何かいい笛でもあったら、買ってもいいかなぁと思っていたら、すごくいい笛があった。見た目、焼きが入っていて、ちょっと長くて曲がっていたりして、かっこよくて…吹いてみたら、すごくいい音が出た。それで店のおやじにいくらだと聞いたら、300RSだと言う。当時にしては結構高いのだけど、見た目もいいし、音のチューニングもかなりいい、300ってのはこれはお買い得に違いないと思って、手付金を支払って、その笛を押さえたんだ。

次の日、残額を支払って手に入れた。そのとき、吹いてみたけど、やっぱりとってもいい音色なんで、感心していたんだ。「この笛を作った人に会いたい」と聞いたら、店主が明日、その笛の製作者が店にやってくると言う。「いい演奏者なのか?」と聞くと、バンスリの名手だと言う。

それで、また次の日、楽器屋に行ったら、そのバンスリ・ワーラ(ワーラとは屋という意味、ここでは製作者)が店にいたんだ。彼が笛を吹くのを聞いたら、それがすごくうまい。ほんとに、インドの雰囲気が抜群に出ている。いままで、たくさん聞いたけど、「この人はすごい!」と感動して、その場で「弟子入りしたい」と言ったら、気に入ってもらったようで、それで本式にプージャをして、弟子にしてらえることになった。

弟子入りのための線香やら、甘菓子から、腕に赤と黄色の巻物をして、プージャ(入門の儀式)のためのものを揃えて本式に入門した。弟子入りのときは、インドではプージャをやるんだ。額にテカを付けてもらったりしてね、弟子入りして、以来、6ヶ月間、朝から晩まで、ひたすらバンスリの練習を続ける日々が続いた。その300RSの笛でね…。

それ以前にも、バンスリは何回も吹いたことがあった。俺はインド音階特有のラーガが好きで、それを吹くのだが、俺が吹くと日本調のラーガに聞こえてしまう。インドのラーガを吹いているつもりでも、日本の音楽のようになってしまっていた。それで、グルジ(俺が弟子入りしたバンスリ・ワーラの敬称)に何回も俺の吹き方は「ジャパニーズ・ラーガ」みたいなことを指摘された。

グルジはインドの本式のラーガを吹いてみせる。ただ、グルジは英語がほとんどできない、だもんだから、ただ、吹いてみせる。俺は見よう見真似で吹いてみる。それはまるで、父親が赤ん坊に言葉を教えるようだった。グルジが吹くと、俺がその後を追って吹く…そんな練習を毎日、半年もやっていたんだ。

グルジには、インド音楽のこころ、核心を吹き込んでもらった感じがする。それにはとっても感謝している…。でもね、半年たって、日本に帰るときに、「テープレコーダーが欲しい」とか、ねだられてね…はははっ。授業料はもちろん支払っているよ。一回百ルピーで、相場なんだけど、その他、プラスアルファのほうが授業料より高かったりして…。

最後に、これから、日本に帰るってときに、グルジは駅まで見送りにきてくれたんだけど、駅のプラットホームで、二人して「わんわん」と大泣きしてね、まぁ、それくらい、しっかりした心のつながりが出来ていたってことだと思う。半年間も、毎日、朝から晩までレッスンを続けたから。グルジは英語が喋れない、俺はヒンディ語がまったくだめ。だから、言葉によるコミュニケーションはほとんどない。そのかわり、笛によるコミュニケーションの絆はものすごく深かった。

帰るときは、たくさん笛をもらって、それで「すぐに帰ってきますから!」と別れて、でも6年間、日本から出られなかった、はははっ。

丸富士
丸富士のバンスリとバリ島シリーズ

「ソハンはバンスリ・ワーラじゃない。」悪魔に魂を売ってしまった俺


今回、6年ぶりに帰ってきて、グルジのところでレッスンを始めた。吹いてみろと言われ、吹いてみると、悲しそうな顔をする。日本で練習していなかったことがバレバレ。やっぱりね、日本に帰ってしまうと、全然吹けない。そこが不思議なところなんだ。日本では、同じ曲を吹いていても、気持ちが乗らない、吹く気がしない。だから、6年間のあいだ、数えるほどしか、バンスリは吹かなかった。手にする気にもなれなかったんだ。思うに、場所的なものか、何かのエネルギー的なものがあるのではないかと思う。

6年ぶりにヴァラナシに帰ってきて、グルジに会って、すると、燃え上がるようにバンスリが吹きたくなってきて、それから、毎日の練習が始まった…。バンスリへの情熱が戻ってくると、やっぱりすごい。それで毎日レッスンに通った、、、通ったんだけど…。

インド式の、昔からやられていた教え方というのは、言葉による伝達ではない。ノートに書いて、これをこのように吹けというようなことはせず、グル(師匠)から弟子へ、直接的に伝達するのが伝統なんだ。ただ、どうしてもラーガの仕組みが曖昧にはわかっているのだけど、その深い理解がさっぱりわからない。知識としてのラーガの仕組みがどうしても知りたいと思っていた。それで、だんだんとフラストレーションがたまってきた。グルジに何ヶ月もついて練習してきたけども、いざ、タブラを前にして、吹いてみろといわれると、まったく吹けない…。ラーガの理解がないことで、頭打ちになっている自分がはっきりと見て取れたんだ。理論的に体系だって教えてくれる先生が必要だと感じ始めていた。

そんなとき、ヴァラナシで同じようにバンスリを習っている日本人に出会うことになった。その日本人に相談したところ、彼は自分のノートを見せてくれた。そこにはびっしりとラーガが書かれていた。彼によると、彼のグル(師匠)は理解が深いと言う。そして、理論的に説明できるには、ラーガに対する深い理解と広い視野がないとできないんだと教えくれた。

俺は早速、その先生、ソハンに会ってレッスンをもらう事になった。で、実際、レッスンを受けてみると、グンとラーガに対する理解が深まり、この先生について習えば、曲が吹けるって感じがして、嬉しかった。そしたら、ソハンが、もしおまえが望むなら、弟子にしてあげるが、いったん、弟子になったら、グルジからも、他のグルからも習ってはいけない、と言われたんだ。そこはインドの厳しいところで、ちゃんと弟子入りしたら、他の先生から習ってはいけないという風習。

俺の心の中は葛藤でどうしていいものか困っていた。いま、習っているグルジとは、もう親子みたいな師弟関係を結んでいる。インド音楽の心を教えてくれたグルジを捨てて、他のグルのもとにいく…。でも、ちゃんとラーガが強く吹けるようになりたい。グルジはいろいろなラーガを俺に吹かせようとするが、もうそれ以上、いけないのがわかっている。ラーガに対する理解が俺にはまだ浅いから、、、いまのままではワンフレーズを吹くことはできるが、一曲を吹くのは到底無理だ。これは、やっぱり、ソハンに弟子入りして、ちゃんとラーガが一曲吹けるようにならないと、埒があきそうもない…。

それで、意を決して、ソハンのところに行き、弟子入りをお願いした。ソハンは、「グルジのほうは問題ないの?」と聞いてきた。俺は、ちゃんとラーガが吹けるようになりたいので、先生から習いたいと決めたんだと答えた。

ソハンに弟子入りする数日前、俺はグルジのところに行った。実はこれこれこうで、この人から、習うことに決めたんだとグルジに伝えた。グルジは最初は「OKOK、ノープロブレム」と言っていたのだが、二人の間で、なんともいえないものが流れ初めて…とっても辛く、寂しいものがあった…。

そういういきさつで、本式のプージャをして、ソハンに弟子入りしたのだが…でも、ソハンは実は、バンスリ・ワーラ(バンスリ吹き)が本職ではない。本当はシェナイ・ワーラ(シェナイ吹き)なんだ。シェナイはインドの結婚式でよく吹かれるラッパ。ソハンはシェナイの名手。彼のシェナイの系統の先生には、インドにおけるシェナイの第一人者ビスミラ・カーンがいる。その人の系統にソハンはいる。バンスリも完璧に吹くけどね。俺が習ったグルジもその系統の先生に習った。つまり、ソハンとグルジは同じ系統なんだ。系統のことをインドではガラーナと言うんだけど、ガラーナが違うと、同じ楽器を演奏しても、まったく違ったものになってしまう。。。だから、俺の心のなかには、やっぱりソハンはバンスリ・ワーラではなくて、シェナイ・ワーラなんだという思いがあって…。グルジも捨てて、、なんとも複雑な気持だったね。

ソハンは、楽器屋の一角でレッスンをしていて、その楽器屋でよく夜のコンサートもやっていた。一番最初に彼のコンサートを聞きにいったとき、ソハンはバンスリを吹いた。そのバンスリのテクニックといい、ラーガの構成の仕方といい、ほとんど完璧。それで安心して、弟子入りしたんだ。俺が弟子入りした、その日、ソハンはまた夜のコンサートをやった。今度はシェナイを吹いたんだ。俺はソハンの吹くシェナイを聞いて愕然としたね。俺はソハンが蛇に見えた。「やっぱりこの人はシェナイ・ワーラ!なんだ」 ソハンがシェナイを吹くとき、もう、彼の発しているものからして全然違う。恐ろしいエネルギーを発している。俺はまるで魔物の前に坐っているような気がして、打ちのめされたような気がしたね。

ソハンの最初のコンサートはバンスリだった。彼はまるでハリプラサードのように素晴らしく吹いた。すごく綺麗に吹いた。これだったら、一流の演奏者だ、間違いないと安心したんだけど、実際に、彼は一流なんだ。若いころから、いろいろと賞をもらったりして、インドでもトップクラスの演奏者に位置する、、、それはシェナイでね。そして、彼のコンサートを2回目に聞きにいったとき、それは俺が彼に弟子入りした日の晩、何を吹くのかと聞いたら、今日はシェナイを吹くと言った。彼がシェナイを吹き始めて、出だしの「バーン」が始まった。出だしからして、全然別物、まったくバンスリとは違う。バンスリの抜けのよい、綺麗な流れとは別物。ソハンは上体を前に倒して、ラッパの先を布に当てながら、上体を起きてきて、でかい音で吹き始める。それがまるで蛇か魔物のようだった。俺はそれを見たときに、心のなかがまっぷたつに分裂してしまった。「俺は魔物にプージャをしてしまった!」とか、「悪魔と契約してしまった!」みたいな気持になって、大変なことをしてしまったと思ったよ。でも、もうプージャして、弟子入りしてしまったので、取り返しがつかない…。ソハンはシェナイ・ワーラ、、、そして、彼のシェナイに対する理解の深みはものすごいものがある。びっくりするほどのシェナイの深みの前に、心のなかがはちきれそうだった。彼はバンスリ・ワーラではなく、シェナイ・ワーラだったんだ!

グルジに「俺はソハンから習う」と伝えたときに、グルジは「ノープロブレム」とは言ったけど、最後のほうで、彼は「ソハンはシェナイ・ワーラであって、バンスリ・ワーラじゃない!」と言っていた。グルジの最後のその言葉が、どうしても心のなかにひっかかっていた…ソハンはシェナイ・ワーラだ…。で、実際、俺が弟子入りした日のソハンのコンサートで確信した…「あぁあ、ソハンはシェナイ・ワーラだ。あぁあ、俺は悪魔と契約してしまった。自分の魂を売ってしまった…」(つづく)


るいネット

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